日本人形 捨て方

大目に見てやってください。

担当にボイスが実装された翌日、俺は河合の自習室で死んだ

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7月31日の7時頃、夏期講習が終わってスマホを見ていた俺はTwitterにフォロワーからのリプ通知が来てることに気づきTwitterを開いた。そこである衝撃的なツイートに目を疑った。

 

 

 

 

 

始まった…… 

自分の担当に声が実装された。ほんとに嬉しかった。やっとボイスが付くのか。

総選挙で4位という好成績を残してから数ヶ月、いつ来るのかいつ来るのかと身構えていたがまさかこんな早く来るとは思わなかった。

俺は茄子P歴はちょうど一年を迎えたばかりの新参者なのだが茄子さんには人一倍愛情を注いできた。これまで一度も2次元のキャラクターに全く興味を示してこなかったのだが、茄子さんが俺のガチ恋処女を奪ってくれたのだ。

俺はボイスを聞こうとすぐさま知り合いのイヤホンを強奪しアイマスを開き全神経を耳に集中させた。

 

 

 

はぁ……尊い……

 

 

素晴らしすぎる。CVの森下来奈さん、本当にありがとう。お茶目で天真爛漫でその中にも大人びてる雰囲気が垣間見える声。俺のイメージを遥か高く超えてきた。こんな声を聞かせてくれる茄子さん、森下さん、そして運営に最高の感謝を。ありがとナス。

そう心に刻みその日は塾で涙を流しながら英語長文読解5・6型を解きまくった。

 

 

その次の日、学校での補習を終えた俺は昨日のこともありウッキウキのウッホウホで河合塾の自習室へ向かった。

この時の俺はこれから起こる悲劇に狂わされるとは夢にも思わなかった―

 

 

自習室に着き、俺は日課であるVintageを解き始めた。しかし暑さのせいかあまり勉強に集中できない。どうしようか。ここで俺は天才的な発想を閃いた。

 

茄子さんの声を聴きながらやろう。

我ながらいい発想だ。思い立ったが吉日、俺は昨日の夜に録音して保存しておいた茄子さんのエピソードボイスをclipboxに保存し音声に変換した。

そして使い古したイヤホンをカバンから取り出し耳につけて再生。

 

…………少し音が小さいな…音量上げるか……

 

……まだ聞こえないな…もう少し上げるか…………あっ聞こえた聞こえた。

 

…あれ?これイヤホンから聞こえてなくね?どっから流れてんだ………………?

 

 

 

 

終わった。

イヤホンに接続されてないまま大音量で流してしまった。自習室には数十人の生徒がいる。そいつら全員に聞こえてしまうほどの音量で流してしまった。しかも一瞬じゃない。5秒くらいガッツリ。

これまでにないほど暑い。吐き気がする。粘度の強い嫌な汗が全身から流れてくる。多分俺の顔は今オルガの服のように真っ赤になってるだろう。

自習室で他の奴が聞いてる曲が俺のように流れてしまったのを聴いたことは何回もある。しかし声が声だけにちょっと今回のはキツすぎる。

いやキツいとかそういう意味じゃない。勘違いしないで。茄子さんの声は何も悪くない。ただ可愛すぎる。声がプリティー過ぎるのだ。「あなたが探してるのは金の茄子ですか~?銀の茄子ですか~?」だってよ。

可愛すぎるだろこのこのッッ!!!!!

もちろん他の奴はそもそも今のが何のゲームの何のボイスかもわからない。とりあえず萌え声という事実だけが頭に残っているだろう。その結果俺は今までひた隠しにしてきた2次元オタクという烙印をいとも簡単に押されてしまったのだ。

運がいいのか悪いのかわからないが俺は窓際の隔離されている席に他の奴と背を向ける感じで座っていた。なので他の奴がどんな表情しているかはわからない。ただ誰が俺の方を振り返り哀れみの目で見つめていたのかもわからない。

自習室のどこかからコソコソ声が聞こえてくる。俺の事を話しているのか。やめてくれ。自習室では私語厳禁だぞ。まぁ私語以上のものを俺は出したんだけどね。

さて、どうしようか。近くの奴に罪を擦り付けるか?犯罪者の思想を持った俺は近くを見回したが誰もいない。チェックメイトである。

 

この事を受け入れるしかなくなった俺は心を落ち着かせようとTwitterを見るしかなかった。トホホ。

その時ちょうど森下さんが呟いていた。

 

 

めっちゃいい人……森下さん、俺は自習室で貴方の声を宣伝しましたよ……自分の命を削って……

 

 

少し時間が経ちかなり落ち着くことが出来た。しかし今まで死角で俺の姿が見えなかった奴らが移動のついでに俺がどんなキモオタが確かめに(キモオタチェック)来るかもしれない。どうしよう。

そうだ。着替えよう。

運良くリュックにはバレー部だった頃の練習着が入っていた。これを着ればこんな運動系があんな音を漏らすはずがないと全員思うだろうという今考えればクソ偏見ゴミバカアイデアだったのだがそれには気付かず着替えるために意気揚々とトイレへ行き着替えた。

 

トイレから戻ってきて少し経ってから気づいたのだが今俺の着ているシャツは何か練習着によくある名言付きのヤツなのだ。

 

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少し違うがまぁほぼこんな感じのTシャツだ。ここで俺が言いたいのは、どんな顔してこれ着てればいいんだよ。萌え声自習室中に響かせた奴が。なんか「ほっとけ俺の人生だ」的な感じになってない?大丈夫?

 

絶対名言Tシャツが悪い方向に転がっている気がする。しかしまた制服を着れば「萌え声を流して服を脱ぎ着する露出狂」として出禁を喰らってしまう可能性もあったので派手な行動は出来ずにじっとしていた。

 

そのまま集中できない中数時間経ったが、かなり精神が落ち着いてきた。メンタルがかなりやられているが恥ずかしいという感情は無くなってきた。こんなアクシデントに遭ったのだから何だって出来そうな気がする。もう1回流したろっかな。もう俺には出来ないものはない。

そう、

 

為せば成る

    為さねば成らぬ

        何事も。

 

謎のテンションになってしまったがそろそろ夏期講習の時間だ。これが終われば俺はこの忌々しい建物から脱出できる。早く移動しなければ。俺の心はまるで薄暗い雲から少し太陽の陽射しが覗き世界を照らし始めた、そんなような気持ちだった。

 

教室に着き暇を持て余していたら知り合いがニヤニヤしながら近付いてきた。なんだこいつ。確か俺が事故った時はこいつは自習室にいなかったはずだ。誰かに聞いたのか。

そう考える俺を見たと思いきや視線を下に外し奴は口を開いた。

 

 

「お前、チャック開いてるぞ」

 

 

ズボンのチャックが全開だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、俺は自転車に乗りながらゲロを吐いた。